実写ドラマ放送中なので漫画版の落語心中読み返してみました。
やっぱり面白い‥!
落語漫画としても面白いし、推理的要素もあって読み応え抜群です。
ちなみに表紙裏やオマケページも凝っていて絵も綺麗(好みはありますが私は好き)。
ドラマで興味を持ったみなさんにはぜひ読んでほしい漫画になってます。
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「昭和元禄落語心中」とは?
『ITAN』で2010年零号から2016年32号まで連載された雲田はるこによる漫画。
完結済みで単行本は全10巻。
第17回2013年度文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞、第38回(2014年度)講談社漫画賞一般部門、第21回手塚治虫文化賞新生賞をそれぞれ受賞している。
原作者の雲田はるこ氏はボーイズラブ・アンソロジー「職業カタログ」に掲載の短篇『窓辺の君』で漫画家としてデビュー。
主な著作に「野ばら」「いとしの猫っ毛」「舟を編む(作画)」などがある。
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あらすじ
戦前からバブル以降まで、細やかな表現を特徴とする孤独・孤高な男と対照的な立場・才能の持ち主とが同門で出会い、落語の将来不安とそれぞれの芸を追求する流れの中で、同門関係・色街と男女・疑似家族・ファン・などが絡まりながら、男達の話芸・落語への存在のかけ方が描かれる。
話は江戸落語界で昭和後期の名人と弟子の出会いに始まり、名人の孤独の形成される過去話となる戦前から戦後に飛び、再び昭和に戻ってバブル前後から、明白となった落語衰退時期へとつながり、名人の孤独・孤高な芸風と生き方と落語界の衰退とがより強く関わり合う。
(ウィキペディア引用)
以下全文ネタバレ注意
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「与太郎放浪篇」考察
単行本第1巻から第2巻に収録。舞台は昭和50年代頃。落語が絶頂期を過ぎ、テレビや漫才ブームに圧されていた時代。
物語は刑務所帰りの元チンピラ・強次(与太郎)が八代目八雲に弟子入りするところから始まります。
この与太郎との出会いで八雲は人生を大きく救われることになります。
なぜ八雲は与太郎を弟子にしたのか?
八雲は弟子を取らないことで有名で、後々明かされますが「落語と心中しようとしている様に見える」ほど。
八雲を崇拝する萬月も幾度となく弟子入りを断れています。
なのになぜ今更八雲は弟子を取ったのか。
しかも刑務所帰りの元チンピラを。
私が思うに【助六と空気が似ているから】かなーと思ってます。

姿形や声質など違うし、キャラデザだって似ているとは思えません。
ですが与太郎がチンピラ時代の兄貴分のために寄席で披露した『出来心』を聞いた八雲と小夏は「寄席の空気みたいなもんが助六とおんなじだった」と語っています。
そして「同じ様な野郎に引っかかる様に神様に作られちまった」と。
初対面の時から八雲は与太郎を無意識に「助六と似ている」と感じ取ったのかもしれませんね。
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「八雲と助六篇」考察
単行本第2巻から第5巻に収録。舞台は太平洋戦争前から、昭和30年代頃の「落語黄金期」まで。
八雲と助六の幼少期から助六とみよ吉の死の真相までが描かれています。
立場、性格、落語。全てが対照的な八雲と助六。
そんな二人が同じ日に七代目有楽亭八雲に弟子入りするところから話は始まります。
菊比古と助六の関係
この二人の関係性はもどかしくもあり美しい。
菊比古は七代目と懇意にしていた母親に預けられた身ということもあり大切にされ学校にも通わせてもらい、危険な満州には連れて行ってもらえません。
性格は繊細で陰のあり、落語が上達しないことに日々苦悩し続けていた。
助六は「八代目八雲」を継ぐために弟子入りを志願し、入門時から落語を諳んじることが出来るほどで、入門後も学業などはせず落語漬けの毎日で才能を伸ばします。
菊比古に対しても「廓噺や艶笑噺が合うと思う」とアドバイスをしたり、落語の将来・落語の未来についてを考えるなど、常に菊比古の一歩前を歩いていた。
性格は粗暴で明朗快活で、天才肌で華のある落語家としてめきめきと人気・実力をつけていきます。
この対照的な二人。


「落語が嫌になりかけていたのは信さんがいたからですが 落語をどんどん好きになったのも、信さんのおかげでした」
という菊比古のセリフから分かる様に、菊比古は助六に嫉妬と尊敬の入り混じる感情を抱いていたわけです。
一方で助六は
「俺ァずっとお前が羨ましかった 可愛がられて甘やかされて何でも師匠にやってもらってヨ 俺ァ所詮野良犬だ 同なし弟子じゃないんだよ」とまた悩んでいた。
この羨望と嫉妬のし合い。好きであり嫌いでもある。
お互いに愛憎渦巻く感情を抱いているもどかしい関係。
ですがそんな二人が切磋琢磨してお互いの落語を磨き、
「落語が生き残る未来を作る」と約束する姿は美しいことこの上なかったです。
七代目が「八雲」を助六に渡さなかった理由
七代目が倒れて、死ぬ間際に菊比古に語った事実。
このシーン読んだときは鳥肌立ったし、ちょっとウルっときた。
七代目は先代の実の息子で甘やかされて育ち、噺家になるなど考えてもいなかった。
ある日、とんでもない弟子が入門してきた。
「親子かなんだか知らないがお前より落語で師匠に気に入られてやる」
その弟子の落語はとんでもなく上手く、先代の目はどんどんそちらへ向いていった。
焦った七代目は落語を始めます。しかし落語に血筋は関係なく、その弟子には歯が立たなかった。
七代目は実の息子という地位をめいいっぱいに使い先代に「次の八雲をくれる」と大勢の前で約束させた。
そうすればその弟子に勝てると思っていたのだ。そこにいた皆がその弟子の方がふさわしいと思ったことだろう。
その名前で苦しむことなど当時の七代目には想像もつかなかった。
程なくその弟子は一門を抜けて、そのあとはどうなったか誰もわからない。
その弟子の高座名は「助六」。そう、初太郎(二代目助六)を育てたお爺さんのことだった。
「野郎と初太郎は別」と、このことには目を瞑ろうとした七代目ですが呪いの様に頭が固くなり「八雲は助六にやらん」と意地になったそう。
「大事な息子の一人を失った‥」
破門にしてしまった助六(初太郎)のことを思い、涙ながらに語ったこのシーンは涙無しには読めませんでした。

七代目は彼なりに辛い思いをしていた言うことで同情はするけどやっぱり助六(初太郎)はかわいそう。
そんな七代目の意地で八代目貰えないのは不憫な気がします。
しかし入門当初に「絶対にあげないと決められるのもおじちゃん。」と言われているわけだから、助六も本気で名前が欲しいならもっと気に入られる様に努力するべきだったのかも。
この一連の話で「襲名」は実力と関係ないということがよくわかりました。
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「助六再び篇」考察
単行本第5巻以降に収録。舞台は昭和末期から平成初期頃。バブル景気およびその崩壊直後。
与太郎の助六襲名に始まり、小夏の妊娠・出産、八雲の死、与太郎は八雲との約束「落語の生き延びる道」を作ることができたのか。が描かれています。
樋口栄助という人気作家が登場し(実は八雲と助六篇にもちょこっと出演している)、助六のみよ吉の死の本当に理由や小夏の父親についてなど謎を解き明かそうとする姿はまるで探偵。
本人曰く「知らないと気の済まない性質」らしいですがその「性質」のおかげで読み手側も大いに楽しめた。
助六とみよ吉の本当の死の理由
8巻で与太郎・松田さん・樋口の3人が助六の落語の映像があると聞いて、二人の死んだ四国の旅館へ。
そこで現場を見ていた松田さんの口から真相が明かされます。
あの日、みよ吉が包丁を持ち出し運悪く助六を刺してしまう。(どういう経緯かは謎のままですが死後の世界で「あいつよく包丁持ち出して『死んでやる〜』ってやってた。あの日に限って変なところで転びやがる」と助六が語っていました)
それを見た小夏が【みよ吉が助六を殺した】と思い込み、みよ吉を責め、みよ吉を窓へと押してしまう。
窓から落ちるみよ吉を助けようとした助六が、一緒に落ちてしまい、転落死してしまいます。
という悲しい事故でした。
つまり、二人を殺したのは幼い小夏だった。というわけです。
小夏はショックのあまり事故の記憶を失ってしまった。
あまりに衝撃的な事実。
八雲が小夏を傷つけまいと墓場まで事実を持って行こうとしていた心意気など全てにおいていたたまれない。
信之助は誰の子なのか?
小夏の息子「信之助」は誰の子なのか、本当の父親についてですが、与太郎は小夏が働いていた料亭に出入りしていて自分がかつて世話になっていたヤクザの親分がそうでないかと決めつけています。
ですが、10巻で樋口が
『養父と養女は関係を破談にしても婚姻を結べない。だが血の繋がりはないわけで長年連れ添ううちに感情が‥それなら誰にも言えないのも合点がいく。この仮定が本当なら信之助は八雲と助六の両方の血を継ぐ子供になる。興奮して身震いする』
と信之助の父親は八雲なのではないか、との仮定を小夏に語っています。
これが本当ならわたしも興奮して身震いする。
あの助六と八雲の両方の血を引く子供って‥!
しかも裏づける要素は作中で度々描かれていて、信之助の父親が八雲説は濃厚。
9巻では親分に対して八雲が「親分さんには返しきれない恩義がある」と語っており、
これに対して親分は「自慢じゃないが口の堅さでここまで昇ってきた」と言っています。
恩義=与太郎をヤクザから足を洗わせてもらったことかと思いましたが、それに対して「口が堅い」はおかしいですよね。
他にも、あの世で『生前いちばん落語を聞かせたかった人を一人だけ呼べる座布団』へ八雲は信之助を呼んでいます。
助六が小夏を呼んだので、八雲は与太郎でも呼ぶのかな?と思いきや信之助。
これは信之助が八雲の血を引く子供だから、と考えました。

極めつけは小夏が「私は口は割らない」「地獄まで持っていく」と言っていることです。
違うなら違うとはっきり否定すればいいものの「地獄まで持っていく」と言うには認めたも同然。
その後「若い頃は八雲師に対しては色々な感情がねじくれてました 若い私にはかかえきれないほどたくさんね けどそれって簡単にまとめたら恋って感情だったんじゃない?今なら思えるわ」と語っています。
これはもう間違いなく認めてるね。
そして成長した信之助の姿が八雲と助六をミックスさせた様な外見なのも、この説を裏付ける要素の一つ。
五代目菊比古を名乗り、落語も八雲と助六をミックスさせた様に見える。

これはもう。信之助の父親は八雲で間違いないでしょう。
与太郎が助六から九代目八雲へ襲名
与太郎は真打昇進してすぐに三代目助六の名を襲名します。
そして八代目八雲が亡くなり十数年後、九代目八雲を襲名することになります。
時を経て『助六が八雲になった』というわけです。
「面白れぇだろ 死んだ助六が八雲になるんだ」
と言う二代目助六のセリフ。
それが平成になり実現されるなんて。
七代目八雲と初代助六の因縁と二代目助六(初太郎)の思いを考えると感慨深いし
このきちんと伏線を回収するストーリー構成が素晴らしすぎる。
感想
原作者の雲田はるこさんはBL漫画出身ということもあり1巻を読んだ時点では「BLぽいなー」という感想しか持てなかった漫画ですが、読み進めているとめちゃくちゃ面白い。
特に「八雲と助六篇」が傑作で、読んでいるうちにウルウルきた場面がいくつか。
四国の旅館で行なった菊比古と助六の『有楽亭二人会』での助六の『芝浜』には泣きました。
漫画という紙面で見る落語なのにここまで感動できたのは、雲田はるこさんの演出と表情の描き方のうまさのお陰です。
こんなにも感情移入できて感動の出来る作品に出会えて私は幸せ。
そして八雲と助六の影響で落語の素晴らしさに感化されました。読んだ当時はYouTubeで調べたくらい。
NHKの実写ドラマの影響で漫画を読み返しましたが、やっぱり面白いしオマケページや表紙裏まで凝っていて、ドラマでこの作品に興味を持った人にはぜひ読んでほしい漫画です!